2011年8月11日木曜日

どうする? 日本企業

タイトルが残念。違う著者の本だったら絶対買わないよ、このタイトル。
でも、三品先生の本はこれで3冊目で、データの整理の仕方やデータの読み方がとても参考になる。


従来の著書と同じく、「大量生産と(長期的)利益は両立しない」、「戦略を決める”人の観”が重要であり、経営戦略とは、集団が合議で決めることではなく、卓越した個人の心の叫びに従うものである」、ということが一貫して書かれている。
企業は人であり、人を観る・育てるシステムが企業戦略にとって重要ということになるのだろう。

本書では、「イノベーション」、「品質」、「多角化」、「国際化」といった企業の模範解答に対して否定論を展開しながら、ではどうするのか?を探っている。ビジネス書というよりは、徹底したデータ分析により帰納法的に見えてくるものから今後を予想していく。その手法が鮮やか。
こういう分析手法、いただきたいな、と思う。


本書において「品質」の章で取り上げているのが、ピアノ、である。ヤマハ、スタインウェイ、ファツオリの戦略を比較している。(三品氏も音楽好きらしいのが文章から推察できる。)
19世紀のショパンの愛したプレイエルをはじめとして、イバッハ、ザウター、ベーゼンドルファー、グロトリアン、そしてデファクトスタンダードを生み出したスタインウェイ。対してヤマハは、戦後、川上源一氏が社長となると従来の100倍の規模でピアノの大量生産に乗り出した。1971年にはアメリカでグランドピアノ市場の半分まで占有した。

このヤマハの挑戦は、「工芸品」と「工業品」のどちらが高品質なのか、を提起している。ハーバードビジネススクールのデヴィッド・ガービン教授によると「品質の多義性」と理解されるのだそうだ。スタインウェイは、パフォーマンス・クォリティ(製品が顧客の期待を上回る)、対してヤマハはコンフォーマンス・クォリティ(製品が顧客の期待を裏切らない)という言葉で区別される。
一時期、ヤマハは品質(均質さ、最適化)に磨きをかけ勝負に出、CFXクラスを投入したが、トップクラスのピアニストはヤマハに転向しなかった。そして10年後(1980年頃)からヤマハの衰退が始まる。その時期はトップ人事の迷走、中国メーカーの進出と時期を同じくする。代用品の寿命は短い。

ヨーロッパのコピーをやめて新しい時代のピアノを一から設計しスタインウェイ。そのスタインウェイを超えるスタインウェイを目標に模倣しピアノを造ってきたヤマハ。しかしピアノを工業製品に仕立て上げた川上源一氏はピアノが特に好きだったわけではなく、後を引き継いでのピアノ事業だった。ピアノと向きあって「やりたいこと」がなかったため、求める価値が「規模」「成長」だったのだろうと筆者は分析している。そのためピアノ事業が天井に届いてからは、ヤマハは多角化へと舵を取る。
その一方で、ファツオリは、スタインウェイとは別のピアノを造る、を合言葉に、音楽家でもあるパオロ・ファツオリ氏がもう一度ピアノを進化させる試みをしている。いたずらに規模を追わず、ピアノと向き合ってに何をやりたいのか志が明確である。
ピアノは大事に使えば100年もつ、音楽をする人々にとっては財産である。10年もつ工業品を買う場合と求める価値が異なるのだろう。

かといって、ヤマハがなければ安価で(それでも一般家庭にとっては背伸びしないと届かないけどね)、品質の高いピアノを身近には感じることはできなかったと思うし、教室も充実しているし、個人的にはヤマハがあってほんとによかった。

モノには消耗品、嗜好品、宝物、いろいろある。どんな思いでつくるのか、買う側の思い、それらの交差するところに、こころざし、のようなものが存在するのだと思う。

この本には他にも「イノベーション」、「多角化」、「国際化」についても企業の事例が紹介されているのだが、紹介は割愛(笑)。


2日間灼熱の名古屋へ通い出張だったので、新幹線の中で読んだ。
200ページくらだが、往復で読めてしまう。





どうする? 日本企業

私が望みを託す活路は「リ・インベンション」、すなわち歴史に残る発明を取り上げて、一からやりなおそうというものです。それは、技術力以上に構想力を要します。
構想力は秀でた個人に宿るものです。日本にも優れた人材が育ちつつあると、私は感じています。
これという人物は、リ・インベンションに挑戦させ、新事業の芽が出たなら、若くても経営を委ねるくらいのことは、やってもよいのではないでしょうか。(本書カバーより)





三品和弘:一橋大学商学部、89年ハーバード大学文理大学院企業経済学博士課、89年ハーバード大学ビジネススクール助教授、北陸先端科学技術大学院大学知識科学研究科助教授等を経て、現在、神戸大学大学院経営学研究科教授。



わーい、今日から夏休みだ!

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